「走り続けていた旧友」(10月9日配信にてご紹介したメ

「走り続けていた旧友」(10月9日配信にてご紹介したメッセージ)

20代の頃、共に夢を分かち合った旧友の突然の訃報を知ったのはクリスマスの夜でした。
くも膜下出血で倒れ、そのまま逝ってしまったのだと。年は40半ば。
葬式に間に合わないのは承知の上で、私は、彼と肩を組んで二人で写った写真をアルバムからはがし
彼のふるさとへ向かいました。
それは毎日が楽しく夜遅くまで夢を語りあっていた頃の写真でした。
その後、彼は夢を実現するためにアメリカに渡り勉強をしていたのですが、数年後に家庭の事情で帰国し
ふるさとに帰っていったのでした。

彼の家に着き、遺影の前に座ろうとした私に、一番下の子が大きな声で
「パパは死んでいないよ。」と。
私はうなずきながら、彼の遺影をじっと見つめました。手は合わせませんでした。
彼の顔を見ていると、走馬灯のようにとは、このことかと思うほどに
彼と過ごした青春の日々のひとコマひとコマが流れるように浮かんできました。
お茶をいただいたあとに、現実を直視し、こわばった表情をしている12才の長男の横に座り
「パパそっくりだな」と声をかけると、何か答えようとするその子のちょっとしたしぐさが
あまりにも彼と似ていてたまらなくなりました。

気丈な奥さんは「こんなに早く未亡人になっちゃいました。
でも6年生を頭に子供が4人いますから、頑張るしかないですよ」
と、仕事を一緒にしたことのある私に強がってみせていました。
そして、彼が子供たちの未来を危惧し、5年ほど前から地域の教育活動に熱心に取り組んできたことについて
話しかけてくれました。教育問題は彼の専門でした。
そうか、彼は走り続けていたのか、夢の途中で帰国し、目標を見失って寂しい思いをしていたと思っていたのに。
ふるさとで目立たぬところで、彼は走り続けていたのだ。
彼らしい、本当に彼らしい…。

たったひとつの命だから
全力疾走で駆け抜けた青春だった
たったひとつの命だから
何事にもまっすぐだった 無茶もした
たったひとつの命だいから
足はもつれるけれど
もう一度走ってみたい 君のぶんまで

匿名

-(著)たったひとつの命だから 第2巻 P34-35-

※10月9日の配信にて、朗読途中で一度配信が途切れた為
こちらに記載させて頂きました。

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